第12回電撃小説大賞受賞作四作

お留守バンシー

お留守バンシー (電撃文庫)

お留守バンシー (電撃文庫)

ほのぼのまったりコメディーですな。ストーリーがどうのこうのではなく、愛らしい登場人物たちを微笑ましい気分で見守るようにして心穏やかに楽しむ作品というか。能力バトルとかスポ根とかラブコメもいいけどたまにはこういうのもいい。

哀しみキメラ

哀しみキメラ (電撃文庫)

哀しみキメラ (電撃文庫)

人間以外の存在になることへの哀しみとか苦悩があまり伝わってこないというか共感できないというか。まあ登場人物の一人が自分はそれほど不幸だと思わないと言っているぐらいだから、作者が意図的に希望がないけど暗過ぎないというラインを目指したのかもしれないが。ストーリーやバトルや登場人物の魅力がどうのこうのではなく、「人外になってしまったことであまり希望がない状況で生きる者たち」という雰囲気が好みに合うかどうかが評価の分かれ目かな。そして残念ながら自分には合わなかった。バトル描写があまりにあっさりし過ぎていて萎えたし、人外化の苦悩にしてももっと徹底的に悲壮な展開の方が良かったな。

狼と香辛料

狼と香辛料 (電撃文庫)

狼と香辛料 (電撃文庫)

評判通り面白かった。ホロ萌えとライトノベルではめずらしい「商売」という素材、それと作品世界の衣食住の描写が優れているのが良かった。ホロは口調が気に入らなくて好きになれないのではないかと心配していたけど、読んでみたらほとんど気にならなくて十分魅力的だったし(ただ、普通の口調だったらもっと気に入ってたかもという気はしないでもない)、衣食住の描写に関しては新人とは思えないほど。反対に欠点というか少々残念なのは終盤以降の話のまとめ方がいかにもライトノベル的だったこと。同じ電撃文庫作品の○○○○○○○(=ダブルブリッド)と似たようなオチなんだよなあ。それが悪いというわけではないが、せっかく前半〜中盤で独特の味を出していたのだから最後までそれを通してほしかったというか。ホロを呼び止める時の台詞はいかにも商人らしくて良かったけど。これ一冊で綺麗にまとまっていると思うが、続編の予定もあるようなのでとりあえず次にも期待。

火目の巫女

火目の巫女 (電撃文庫)

火目の巫女 (電撃文庫)

なるほど、こりゃあ確かに評判通り鬱展開で後味の悪くなりそうな終わり方だわ。ハッピーエンド至上主義者は間違っても読まない方がいい作品だな。でも個人的にこういう話は嫌いじゃないというかわりと好みに合っているというか。実際読む前は鬱展開に気分が悪くならないかと心配していたのだけど、いざ読んでみると自分としては十分OKな話の流れですごく良かった。新人四作のうち最も評判がいい『狼と香辛料』よりもこちらの方が個人的には満足度が高いぐらい。


まったりほのぼの路線で老若男女を問わず受け入れられやすい『お留守バンシー』、商売というめずらしい素材と強烈な萌えとしっかりした世界観描写という三つの長所を有する『狼と香辛料』、やや重い話で独自の特色を持つがゆえに好き嫌いが分かれ人を選ぶ『哀しみキメラ』『火目の巫女』という感じかな。四作ともレベルに大きな差はなく評価は個人の好み次第かと。個人的には『火目の巫女』が一押し。